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幅 : 12.4cm 奥行10.4cm 高さ :9.2cm
本作の見どころは、薪窯焼成によって器面に降り積もった天然の灰が熔け込み、乳白・鼠・黄土・淡青へと連なるグラデーションを生み出している点です。灰中のカルシウムと素地中の珪酸・鉄分が高温で反応し、表層にはガラス質の艶を伴う灰白釉、その下には黄緑や琥珀色の流れが幾重にも重なっています。まるで岩壁に沁み出た鉱脈や滝筋を凝縮したかのような景色が一碗に宿り、自然が描く抽象絵画の趣を漂わせます。
胴部はおおらかな円筒を基調としながら、数カ所を彫り込むように削いだ面取りが施され、光が当たるたび稜線と陰影が浮かび上がります。削り跡に沿って灰釉が溜まり、浅い水脈のような輝きを見せる一方、盛り上がった部分では灰が薄く留まり、黄土色の素地が透けて現れます。縁は穏やかな波状を描き、口当たりに優しいリズムをもたらしつつ、山並みの稜線を思わせる風景的な表情を添えています。
素地には鉄分を多く含む丹波産の荒土が用いられています。底部や釉の薄い部分から覗く赤褐色は、灰釉の冷ややかな灰青を中和する温かな呼吸として働き、器全体に深みを与えています。土粒の粗いテクスチャは、ガラス質の灰釉が覆う滑らかさと対照を成し、視覚と触覚の両面で「土と炎が織り成す二重奏」を体験させてくれます。
見込みはやや深めに取られ、茶筅が自然に回転するスペースを確保しております。肉厚の胴はゆるやかに熱を伝え、濃茶でも掌に心地良い温度を保ちます。高台は低めに切り込み、卓上での安定感を保ちつつ、全体の重心を下げて持ち重りを感じさせません。抹茶の鮮烈な緑は、灰白と黄土の釉景を背景にいっそう引き立ち、薄茶の泡沫もガラス質の艶に柔らかく映えます。
装飾を排し、灰と炎が作り出した景色をそのまま受け止めた姿は、禅が説く「無作為の美」を象徴しています。灰釉の中に潜む微細な泡痕や結晶は、風化した岩肌や枯山水の砂紋を想起させ、使用者に大地と時間の流れを静かに語りかけます。茶席で本作を用いれば、一碗の中に山川草木が凝縮されたような瞑想的空間が立ち現れ、一期一会のひとときに深い余韻を添えてくれるでしょう。
釉層には細かな貫入が走り、長く使い込むほどに茶が染み入り、灰青や黄土の面に淡い褐色のニュアンスが加わっていきます。流下した灰釉の溜まりや底部の赤土も、手擦れとともに艶を増し、持ち主の時間が器の表情として刻まれる過程は、茶道具ならではの醍醐味といえるでしょう。
灰と炎が描いた複層の地景を掌に宿す灰釉茶盌です。丹波の土、薪窯の灰、そして西端正様の確かな造形力が結び付き、禅的な静寂と自然讃歌の物語をひとつの器に凝縮しました。どうぞ長くご愛蔵いただき、歳月とともに深まる風合いをお愉しみください。
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