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幅 : 16.0cm 高さ : 17.4cm
鉄釉窯変水指(てつゆう ようへん みずさし) 岡田優様作
――「深黒の静寂に潜む翡翠の微光、竹節のリズムが茶席に響く」
水指は、点前の途中で茶釜へ水を差し、茶碗や茶筅をゆすぐための水を蓄える―茶席の潤いと静けさを司る要の道具です。本作のように共蓋を備え、胴と蓋が同質の意匠で完結しているものは、道具組の核として季節を問わず活躍します。とりわけ黒一色の水指は、幽玄な景色をもつ釜や茶碗を引き立て、茶席全体に緊張と静謐をもたらします。
鉄を多く含む釉薬は、高温焼成で深い黒を現しながらも、炎の揺らぎや還元の加減で緑や紫、褐色をわずかににじませます。岡田優様は還元の終盤に酸化気味の炎を一瞬交えることで、黒地の奥に翡翠(ひすい)の斑影を漂わせ、静かながらも表情豊かな肌合いへ導いています。
胴の中央に走る水平の隆起は“竹節”を思わせ、そこに釉がわずかに溜まることで深紫の帯が現れました。灯りの下では黒に翳りが生まれ、淡い緑青がほのかに瞬き、夜竹林へ射し込む月光を思わせる幻想的な景色が姿を見せます。
本作の口造りは、縁をわずかに内側へ絞ることで共蓋を静かに安定させ、水面の波立ちを抑えています。そのため柄杓を差しやすく、釜へ水を注ぐ際に杓先が縁に触れても音が柔らかく響き、茶席の静寂を保つことができます。
胴中央には竹の節を思わせる隆起が巡り、胴を二段に分節して造形に心地よいリズムをもたらしています。この節帯は手掛かりとしても優れており、棚や炉縁から取り出す所作を安定させ、客前での動きに自信を添えてくれます。
裾はわずかに絞られており、見込みの水が落ち着くだけでなく、全体の重心を下方へ寄せることで安定感を高めています。置き場所を移す場面でも揺れが少なく、安心して席中の扱いを行える点が魅力です。
共蓋の摘みは小ぶりな盃状で指にやさしく掛かり、胴部の黒釉と呼応して一体感を生み出しています。蓋置を用いず畳へ伏せた場合でも景色が崩れず、格調ある佇まいを保つため、亭主の所作に品位を添える逸品となっております。
桃山時代、武家の豪放な美意識を代表する瀬戸黒・織部黒の茶碗は、黒釉により茶の緑を際立たせる最強の“引き立て役”として台頭しました。鉄釉窯変水指は、その黒釉の精神を水指に写し替えた存在であり、
黒の深みで茶席を引き締め、窯変の揺らぎで侘びの余情を生み、竹節の意匠で侘数寄の武家趣味と自然礼賛を同時に語ります。岡田優様は、炭山の竹林が朝霧に揺れる風景を心に映し、黒釉の奥に翡色を沈めることで“夜明け前の竹”を器上に呼び込んでいます。
岡田優様は、清水五条坂の伝統技と宇治・炭山の自然が交差する場所で、「風景を器形に写し取る」作陶を続けておられます。本水指では、竹林の垂直リズムを縦鎬ではなく節帯で表現し、月明かりのかすかな翡色を還元の窯変で忍ばせ、静夜に耳を澄ますような黒釉の無音を追求しました。茶席に据えるだけで、竹の香と夜風の気配がほのかに立ち上り、客人の五感をそっと開きます。
深黒の静寂をたたえ、竹節のリズムが息づく鉄釉窯変水指。掌で撫でると細やかな凹凸が指先に心地よく、節の帯が確かな手掛かりを示します。茶の湯の「一期一会」に、夜竹林の幽玄と翡玉の微光を添え、静けさの中に豊かな物語を届けてくれることでしょう。
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